ある6月の日、インゲンが教えてくれたこと

今年の6月は梅雨なんだかどうだかよくわからない天気が続いている。
5月は毎週末のように雨の日ばかりで、子どもの運動会も延期になった。それが、6月になった途端、真夏のような日差しが続いて、まさに運動会日和といったお天気に恵まれている。そのおかげかどうか知らないけれど、畑ではインゲンがわしわし元気に育っている。
インゲンは私の背丈よりも高い(たぶん2メートル近い)支柱を、三角になるように組み合わせ、そこにネットを張り巡らせたところへつるが絡んで育っていく。今日の畑ではこのインゲン取りが私の仕事だ。
「こんくらいの大きさのやつをさ、こうやって根元を押さえて、ここ持って引っ張って取ってってくれる?こんだけ天気がいいと、もうどんどん育っちゃうのよ〜。たくさんあって大変だけど、はい、頑張ってね」と畑の管理をしているN氏がカゴを渡してくれる。
葉っぱとつるが盛大に絡まってわさわさと混み合ったところを手でかき分けると、インゲンが何本もぶらぶらと揺れているのが目に入る。つるとインゲンの境目を片手で押さえ、反対の手で実を引っ張るとぷつっとつるから外れて取れる。肩に斜めがけにしたカゴに取ったばかりのインゲンを向きを揃えて入れていく。
まだ花が落ちたばかりといった小指ほどの赤ちゃんインゲンもあれば、すらりとまっすぐ伸びて手のひらに収まるお嬢様といった風情のものも、大人の顔くらいの長さまで伸びて、ゴツゴツ膨らんだ野生味あふれるやつまで賑やかだ。
「おっ、ここに隠れてたのか。みっけたぞ〜」と喜んでいられるのは最初だけ。地面を這うように伸びたのもいれば、背伸びしてやっと届く高さのものもあり、時に這いつくばり、時に背伸びしては葉っぱをかき分け進んでいく。ついさっき「そこは取りきった」と思った所でも、15センチ進んでから振り返ると、さっき見えなかったインゲン達が「あっ、見つかっちゃった」という風に何食わぬ顔して揺れているので、またそこへ戻っては取りなおす。
まだ真夏にはほど遠く、吹く風はからっとしているけれど、6月の日差しは畑に容赦なくふり注ぐ。汗が目に入るのをタオルでふきふき、無心にインゲンを取る。
不思議なもので、支柱につるや葉っぱが混み合ってぎゅうぎゅうしたところに育つインゲンは、障害物をよけようとするのか、はたまたそれらに絡んでいこうとするのかわからないが、たいてい捻じ曲がったりひん曲がっている。くの字どころか、S字に曲がりくねったものも珍しくない。
反対に葉っぱもつるもそう混んでいなくてスペースがたっぷりあるところで育つインゲンは、ゴツゴツも少なくすらりと伸びて、見た目にも優しく美しい(スーパーでよく見かける10本ひとパックになったようなインゲンはこのスラリタイプのインゲンだ)。
見た目からいうとすらっと伸びた箱入り娘のインゲンの方が高値が付くのだろうけれど、味はどちらも変わらない。というかむしろ、せせこましいところでその環境に負けじと抗い、曲がりくねりながら育ったインゲンを葉っぱの陰なんかに見つけると
「ふうむ、よくこんな狭いところで頑張ったねぇ」
としみじみとした気持ちになって、ついこちらに肩入れしたくなる。なんなら曲がっている分だけ歯ごたえというか、すんなり口に収まらずに主張するむきがあって、面白い。その辺りはさながら人間と同じようだ。
たった1時間ほどの作業で、インゲンはカゴに山盛り取れて、畑仕事の仲間でわけて持ち帰った。
測ってみると400グラムもあったので、トルコ風にオリーブオイルとトマトと一緒に煮込んだものを作る。
(正式名称がわからないので、後で調べたらターゼファスリエという名称だった。ちょっと覚える自信がない・・・)
フライパンで、塩、砂糖、チリパウダーと野菜(インゲン、玉ねぎ、にんにく)を入れてくつくつ煮込むシンプルな料理だ。インゲンの控えめな味をトマトの甘みが引き立てていて、とろっと冷たく、柔らかく、たくさん作ってもするりとお腹におさまる。
ここではひん曲がったインゲンも、お嬢でスラリのインゲンも、つやつや光って賑やかに、仲良くお皿に並んでいる。畑で取ってきたばかりのインゲン達は、どちらも美味しく、そしてどちらもとても愛おしい。