こんにゃく、糸こん、あるいはしらたき

「こんや こんにゃく」という曲を以前Eテレでだいすけお兄さんが歌っていた。
「こんにゃく、今夜くう〜?」という嘘みたいなダジャレをお兄さんが笑顔でシャウトするところから始まる。アップテンポのリズミカルな曲で、歌詞はほとんど中身がない。
よくよく聞いてみても、こんにゃくのくにゃりとした状態を明るく歌いあげているだけで、こんにゃく料理が美味しいだとか、お兄さんがこんにゃく好きなのかどうかすらわからない。
にもかかわらず、こんにゃくの存在感は強烈に印象に残り「そういえば最近こんにゃく食べてないな。ちょっと買って食べようかな」と思わせる。
我が家でも、おでんに始まり、こんにゃくの味噌だれがけ、醤油と砂糖とごま油で甘辛く仕立てたこんにゃく煮と家族揃って好物だ。(私が群馬出身だからだろうか)
特におでんのこんにゃくは皆が取り合いになる。母親として、おでんの時はもう少し栄養のある具材(さつま揚げや牛すじ、卵など)を食べたら?と思うけれど、そんなことはお構いなしに、こんにゃくが不動の一位を誇っている。
ちなみにこんにゃく意外の具材でいうと、大根、さつま揚げ、ちくわ、ウインナー、餅巾着、糸こんあたりがレギュラーで、それ以外に卵、ゆでだこ、牛すじ、厚揚げなどが気分で入ってくる。
ここにお気に入りの冷酒なんかを持ってくれば、もう何もいうことはない。
子ども達が大きくなってくると、こんにゃくは1枚では足りなくなった。鍋の中身がまだ半分くらいしか減っていないのに、こんにゃくの残りが2、3切れになると、子ども達がおずおず
「こんにゃく、もう一つ食べていい・・・?」
と聞いてくる。
なんだか小学校の頃、教科書で読んだ「一つの花」のゆみこを思い出してしまい、戦時中でもないのに、こんにゃくの残りを気にしている(させている)自分が情けなくて、こんにゃくくらい遠慮せずにたんとお食べ!と思っているうちに、我が家のおでんにおけるこんにゃく比率はどんどん増えてしまった。
というわけで、おでんを作ろうと思ったら、まずこんにゃくは3枚買う。こんにゃくは1枚200〜300gくらいだが、小さめのこんにゃく2枚では足りないので、小さめなら3枚、大きめなら2枚が今のところ我が家の適正量。

ちなみにこんにゃくは原料が「こんにゃく粉」と「こんにゃく芋」の2種類があるのはご存知ですか?どちらも食感や調理方法によって一長一短がある。
原料がこんにゃく粉のものは、表面がつるんとしていて食感がとても滑らか。噛みちぎる時も伸びがよくて弾力がある。こんにゃくの田楽みそなんかは、こちらの方が合う。
一方、こんにゃく芋が原料のものはざらっとした舌触りで、芋の中に隙間が多いぶん味しみがよく、伸びは少ないかわりに歯切れが良い。こちらは煮込み料理やステーキなんかに向いていて、ほんの少しだがこんにゃく粉のものより値が張る。
おでんは高価な肉や魚が入らないぶん、こんにゃくくらいはいいものを選びたい、と(本当にひそかに)奮発する。
そんなこんなで3枚もこんにゃくを買って帰り、鹿の子に切り込みを入れて下茹でし、別で大根やじゃがいもを切って下茹でし、練り物を油抜きして置いておく。味の染み込みにくい大根、こんにゃく、じゃがいも、あれば牛すじなんかも入れて、だし汁と調味料でことこと煮込む。
時間があればここで一旦冷まして味を含ませたい。仕上げに鍋を温め直し、そこに油抜きしておいた練り物や餅巾着を加えてまた20分ほど煮る。
おでんの良いところは(しち面倒くさい下拵えさえ済ませてしまえば)後は素材それぞれの旨みが合わさって、自然とおいしくなってくれるところだ。
先日、5月にしては気温の低い日が続く時があり、私もわりと暇だったので、たっぷりこんにゃくを買って前日からおでんを仕込んでおいた。
ニットのカーディガンが心地よいほど肌寒い夜に、おでんがたっぷり入ったホカホカの土鍋を食卓の真ん中に据える。練り辛子やら柚子胡椒も準備して、子ども用にご飯をよそい、家族が食卓に揃ってさぁ食べようと鍋蓋を取ると
「・・・母さん、今日は糸こんないの?」
と下の子がぽつり。
はい、今回こんにゃくのことばかり考えていて、糸こんの存在を完全に忘れていました。こんにゃくと並んで糸こんも我が家ではレギュラーメンバーだったのに、この日はなぜか完全にすっかり忘れていた。すみません。
その後夫からも、上の娘からも、糸こんの不在を責められたのはいうまでもない。
